究極のツーリング写真 touring-photography.com 読者の皆さま、この春のシーズンは良い写真が撮れましたでしょうか?お気に入りの桜並木でバイクを置いてパチリと撮ったけど、よく見たら去年も全く同じような写真をこの場所で撮っていた…なんて方はおられませんか?写真をやる上での一つの重要な楽しみは進化を実感することです。日々、上達を意識して写真を楽しみましょうね。
つい先日のニュースで老舗雑誌である日本カメラが休刊とありましたね。昨年は日本最古のカメラ雑誌であるアサヒカメラが休刊。雑誌業界で言う休刊とは廃刊とほぼ同じだそうで残念なニュースですね。カメラ雑誌にかぎらず出版業界の全体が振るわないようですが、これも時代の流れなのでしょうか。
いま多くの人が写真を楽しみ写真という文化が過渡期を迎えています。スマホで撮る人、SNSで世界に発表する人…一見すると写真文化は盛況のように思えます。しかし古くからあるカメラメーカーやカメラ雑誌が衰退していく…いったいなぜでしょうね。昔からあった一般需要における写真文化は記念写真、記録写真、趣味の写真など現在と大きくは変わっていません。変わったのはカメラのデジタル化、インターネットの普及による写真文化の変化、スマートフォンの登場といったことでしょうか。
多くの人々が「私もいい写真を撮ってみたい」という願望を抱いている。このことについて改めてもう一度、メーカーや雑誌などは考えた方が良いのかもしれませんね。
さて今回は前回の投稿でご紹介した小湊鉄道のあるツーリング写真の作品を使って解説してみたいと思います。最近、すっかり鉄道とバイクのハイブリッドばかりです…
はい、いつも通りまずはスマホで撮った撮影地の様子です。県道から平行して走る小湊鉄道の線路。そこに菜の花が咲いているポイントがあったのでR1200GSを停めて撮影に挑みました。この近くにある菜の花の鉄道風景で有名な「石神菜の花畑」とはまた違った雰囲気で、自然と咲いている菜の花という控え目な雰囲気が私の琴線に触れました。
まずはどんな風に魅せたいかな?と希望のイメージを作ります。次にそれがここで出来ることなのか?撮影地の条件と照らし合わせて考えます。続いてキャスティング、この撮影シーンのキャストは後でやってくるであろう1.列車 そして2.線路 3.菜の花 といった感じです。メインキャストは列車で菜の花は舞台、線路は写真の構造となります。
この場所で私が特に気に入ったのは線路が微妙にS字を描いていることです。写真デザインの観点で色、線、図形…といった要素を風景から見つけ出し、写真の中に組み込んでいくことで観賞者の目を楽しませる写真が実現できます。特にS字曲線は視線誘導線として心地よく目を走らせる効果があるので歓迎すべき要素です。
上の写真から分かると思いますが多くの場合で実際の様子とはさして美しくはないものです。もしそのままの景色が絶景!ということであれば写真家のできる仕事は少なく面白さもありません。イエローストーン国立公園、夕陽の当たるマッターホルン、水鏡のモンサンミッシェルなどを前にすれば、普通にシャッターを押すだけで誰でも立派な写真が撮れるものです。
そういった意味では多くの人が気にもとめずに通り過ぎていく風景こそ、写真家のオリジナルな表現ができる、とも言えますね。

画面という長方形の四角形の中でS字曲線が理想的に入るようアングルを模索しました。同時にバイク+ライダーのエリアとそれ以外の風景のエリアで2つのエリアに理想的な比率を作ります。比率は理由なき等分(1:1)を避け、原則として1:3単位の奇数で作っていきます。有名な三分割構図や露出の段数が1/3単位であること、そもそも画面という長方形が2:3の比率であったり写真の世界ではとにかく【3】あるいは【5】といった奇数が傑作へのPINコードになっているのです。

構図とは必ずしも1つの手法を1つだけ使うものとは限りません。複数の手法を組み合わせてもOKです。三分割構図は写真の世界ではよく知られた構図ですが例えば交点、線、面といった具合に複数のポイントで使うことも出来ます。この場合は列車の位置を右上の交点に合わせ、イエローのエリアを中央としグリーンで挟んだ三分割としました。線で三分割とするとき必ずしも線を水平に使う必要はありません。このように斜めに使っても悪くはないのです。
こういったアングルを作るにあたり、何をすれば出来るの?と聞かれればカメラの位置を数センチずらしたり、三脚のエレベーターで高さを微調整したりと実際には地味な作業です。大切なことは予め知っている知識を目の前の状況と結び付けて【いま出来ること】を思考することです。それは謎解きのように考え込むことではなく、ひらめきや直感を使って瞬間的に決めます。説明すると理屈っぽいですが実際には感覚の世界ですね。

この場所で私が大切にしたかったことは菜の花が人工的ではなく自然とそこにある雰囲気です。そこへ登場した気動車キハ200とその景色に出会ったツーリングライダー。一期一会の風景の出会いといつまでも変わらない素朴なもの。こういった「気持ち」をよく意識してイメージを作りました。投稿のタイトルに「表現したい一つを抽出」と書きましたが、何でもないような風景の中から自分の気持ちを抽出するように撮りましょう、という意味ですね。
最初はとにかく試行錯誤です。時間的猶予があればとにかく良く見て、良く感じ、良く考えて試す。画像を再生して「これが一枚の写真となったとき、これで果たして良いか?」と自問してみます。少しの傾き、少しのバランス、少しの比率などほんの小さな調整で完成度が激変することを意識しましょう。神は細部に宿るのです。
ところでこの撮影場所、スマホで時刻表をチェックしようと思ったらまさかの圏外でした。近くに駅や踏切が無いので音で列車の登場を判断するにはキハ200のディーゼルエンジン音だけが頼りでした。県道は割と交通量がありトラックなどが通るとキハ200の音がよく聞こえません。なかなか難儀しました…
しかしいざキハ200が登場すると運転手さんが私を確認したのか「プワァ~ン」という独特の警笛を鳴らして挨拶してくれました。この時の嬉しかった気持ちも大切に帰宅してからLightroomでレタッチをしてみましたよ。
今回はこの辺で!!!