究極のツーリング写真 touring-photography.com 読者の皆さま、師走ですが走り納めツーリングの計画はもう立てられましたか?
ずいぶん前のことですがクリスマス時期に東京ディズニーランドに行った時にこんな出来事がありました。ディズニーランドのシンボルであるシンデレラ城の前でした。見知らぬ女子2人組が私に「写真を撮ってください」と頼んできました。カメラは確かEOS Kissでキット物のズームレンズが付いていたと思います。
私はシンデレラ城をバックに素敵な記念写真を撮ってあげようと、許される限り後ろに下がってレンズのテレ端で撮りました。縦構図で左上に引っ張ったシンデレラ城、右下にお二人のバストアップ、絞りはF18に設定しパチリパチリと数枚。「これでバッチリかな」とカメラをお渡しし、念のため問題ないか画像を見てもらいました。
喜んでもらえるだろうか…という期待とは裏腹に返ってきた反応は「足まで全身を入れてください」というまさかの再撮依頼でした。おそらく写真とは枠の中にきちんと被写体を収めるものだ、という固定観念なのでしょうね。苦笑しながらも言われた通りに再度撮り直しましたが、全身が入るように撮るには広角よりの画角となったので、シンデレラ城は最初の写真よりもうんと小さくなってしまい平凡な写真になってしまいました。
ご帰宅されてから「あの時、あの人が最初に撮った写真の方がいいわね」と私が最初に撮った写真が採用カットになったことを願うばかりです。
さて、今回のツーリング写真解説は写真ビギナーがつい撮ってしまう平凡な構図とは?と題して簡単な構図のお話を書いてみたいと思います。先ほどのシンデレラ城のエピソードと同様に被写体を枠内に収めて云々…という写真をツーリング写真に当てはめると次のような写真になります。

はい、こんな感じです。もう12年も前に私が撮った写真です。今では有名な小湊鉄道の撮影スポットである石神お花畑です。信じられませんが菜の花が満開のシーズンでも当時は誰も写真を撮っている人が居なくて貸し切り状態でした。今だったら週末なら撮り鉄さんが100人くらい集まりますけどね。この写真の場所にバイクを停めようものなら大ヒンシュクです。
で、この写真をみて「いい写真だ」と思った方はいらっしゃいますか?これは写真がいいのではなく石神お花畑という場所、つまり事実が素晴らしいのであって写真がいい訳ではないのですね。
写真は被写体をきちんと枠内に収めて撮ろう、この固定観念に縛られていてはお子様構図ばかりを撮ってしまい、せっかくの撮影シーンも陳腐な写真で終わってしまいます。バイク、小湊鉄道の車両、お花畑、これら重要な被写体がバッチリ枠に入っていればOKなんて極めて稚拙なことです。
では最初に何をするか?
素敵な場所にきた記録を撮るのではなく、この景色を受けて撮影者が心動かされたことを1つだけ選び、それを明快に表現できるよう構図を作ってみましょう。
まずは写真を撮ろうと思った場所で被写体がいくつあるか数えてみましょう。バイク、鉄道、花…このように2つ以上の要素がある場合は主役を1つに絞ります。シンプルな背景にR1200GSを置いただけであれば、被写体は1つなので必要ありませんが2つ以上の被写体があれば1つに絞るのです。
1.鉄道が主役でバイクが脇役

この場合、バイクの存在感はそこへバイクでツーリングで来たのだな、という事が伝わる程度で十分です。バイクをやたらカッコよく撮る必要性はありません。大切なことは1つの主役が魅力的に写るよう主役の存在感を意識すること。カラーが可愛らしいと思えばそれが伝わるように撮ったり、重厚な質感に魅力を感じたらそれを表現するのです。
やり方はいろいろあります。大きさや位置関係はもちろん一方にピントを合わせてもう一方はボカす、フレームで切り落とす、一方は光に当ててもう一方は影に置くなど…。ちょっとした一工夫と手間で写真が激変するものです。
上の写真の場合はカーブで傾いている様子が気に入ったので、それが分かりやすいようアングルを模索しました。
2.バイクが主役で鉄道が脇役

先ほどと逆になっただけです。
とにかく2つある被写体のどちらが主題でどちらが副題かを明らかにするのです。ここでの注意点は中途半端にしないことです。どうしても写真ビギナーはあれも写そうこれも写そうと欲張ってしまうものです。欲張れば欲張るほど主題は曖昧になりやすく、構図は複雑さを要求してきます。
上の写真の場合はR1200GSが主役となる構図ですが、フロントタイヤの下1/3を切り落とすことで迫るような迫力で存在感を強めています。
もしシンプルな背景にバイク1台なら構図は簡単です。今回の鉄道のように何かの被写体とバイクであれば被写体は2つ。2つなら主題と副題を決めるのにさして複雑さはありません。この辺までが写真ビギナーの方におすすめと言えます。
3.バイクも鉄道も副題で花が主役

もし構図を作る上でこれら被写体のキャスティングが難しいように感じたらお勧めのやり方が1つあります。それは感動の言語化です。
そこで写真を撮りたいと思った理由、あなたの心の針がふれた瞬間を表現するには?目の前の風景の特徴を受けて普段は使わないような詩的な言葉で表現してみましょう。「辺り一面を黄色い絨毯が包み込む温かみある鉄道風景。どこか懐かしさを覚えた」といった具合に気持ちを言語化したら、主題は「菜の花が包み込む鉄道風景」に決まりです。
あとはそう撮るために包み込んでいるように見せる深度(絞り値の調整)、望遠の画角で花の密度を上げる、といった具合に作業に落とし込みます。こんな時はこうしよう、というイメージと撮り方の引き出しを紐付けるのはビギナーには難題ですが、いつか上達すればそう撮るようになるのだな、と覚えておいてください。
4.工夫をこらす
伝えたい1つを明確にするのは割と基礎的なことです。それができれば写真は一気に陳腐さが消え写真の見識のある人が撮った1枚!という感じになります。しかしその程度では作品と呼べる個性を出すのは難が有ります。
写真にあなたらしさ、ユニークさを加えるなら型にはまった撮り方でない、定石と違った撮り方を考えてみましょう。この写真は1枚目の平凡写真と同じ場所、小湊鉄道の石神お花畑で撮ったものです。R1200GS-ADVENTUREのコクピット越しにみた風景としました。これには周囲に他のカメラマンがたくさんいてスペースに限りがあった…という事情も隠されています。
ツーリング写真を撮りに行ったのにどうしても愛車もカッコよく撮りたい!という気持ちが抑えられない場合、それは別で撮ると覚えておきましょう。1つは愛車が主役ではない風景主体のツーリング写真、もう1つは愛車が主役で一方の被写体は背景に留めた愛車カット。後で帰ったらそれぞれの写真をどのような場所で発表しようかじっくり考えましょう。
いかがでしたか?
写真を見る人は「この写真になにか素敵なことが写っているのだろうか?」「興味のあること、美しいものは写真の中にあるのかな?」と写真に対する期待を抱くものです。一方で撮影者が「俺のバイクはやっぱりカッコいいな」「小湊鉄道の菜の花の景色を写真に収めたぜ~イエー」では撮る側と見る側にあまりに温度差があります。人に見せる写真と自分で見る用の写真は全く別のものなのですね。
自分で見る用の写真を「見て見て、俺写真うまいでしょー」とSNSで発表するのは悪い事ではありませんが、そろそろ見る側も「うんざり」しているかもしれませんよ。
今回はこの辺で!!
↓↓↓石神菜の花畑↓↓↓