究極のツーリング写真 touring-photography.com 読者の皆さま、読書はお好きですか?私は最近、小説を読むのが好きでキャンプ場なんかでもひたすら読書をしています。先日、ある小説家さんのファンになってしまい最近はその方の書いた本ばかりを読んでおります。画家を題材にしたものや沖縄を舞台にした恋愛小説など色んなジャンルの作品があるのですが面白いのです。
ある時、その作家さんの書いた作品で北海道を舞台とした女性ライダーが主役の小説を見つけたので「これは面白そうだ!」と思い購入しました。しかし読み終えてみるとチョットだけ期待外れ…。十分に取材をしたのでしょうけどソレを陵駕するほど読む側の私がバイクツーリングや北海道のことに詳しすぎるのが敗因でした。
これと同じようなことが自分が撮る写真にもいえないだろうか…。ふとそう思って考えてみました。写真を見てくれた人がバイクに乗らない人、またはツーリングをしたことのない人が見る場合。一方、ツーリングのベテランが見る場合とで印象がだいぶ違うのではないだろうか?と。そう考えると1枚の写真にツーリングの魅力を伝える役割と、既にベテランのライダー向けに共感をさそう役割との両者があるのかな?そんなことを考えてしまいました。
さて今回は<中級>ツーリング写真解説として望遠レンズのあまり知られない活用方法をご紹介いたします。
つい先日、走りなれた千葉の田舎道を走っていたときです。国道からの脇道に走りやすそうな林道の入り口を見つけたので入ってみました。その道は最終的に行き止まりだったのですが、その場所に開けた空間と立派な杉の大木が2本存在していました。この不思議な雰囲気に足を止めずにはいられませんでした。
しばらく情景を眺め、センサーを炭鉱のカナリヤのように敏感にして感じ取ってみました。この静寂さと独特の雰囲気の正体は何なのだろうか…?と。
結論は当初に惹かれた二本の杉から得体の知れない神々しいエネルギーを放っているのだ…と理解しました。実際はどうなのか分かりませんがそう思う事で作品の方向性をしっかり決める、という意味です。

こちらの比較画像をご覧ください。左側は35mmレンズ、右側は200mmの望遠レンズです。バイクを停めている場所は変わりません。しかし両者は全く印象の違う写真であることがお分かり頂けると思います。
35mmの方はカメラディスタンス(カメラからR1200GSまでの距離)約5m。一方、200mmの方は80mくらいです。どちらの構図も木を画面の中央に堂々と配置した縦構図ですが決定的な違いはバイクの大きさと背景の範囲です。
望遠レンズを選択し約80mも離れることで、バイクを小さく見せて対比的に木の巨大さを表現、35mmでは余計な要素だった空を除外し地層がむき出しの岩壁だけを背景にしました。このように背景をシンプルにすると被写体の存在感が際立つのを覚えておきましょう。
面白いのは望遠レンズを選択したのにバイクは小さくなったことです。巨大な杉を35mmの時と同様に画面いっぱいに配置したければ、うんと後ろに下がる必要があります。その結果、R1200GSは米粒のように小さくなりました。これ、あまり知られていない望遠レンズの使い方です。ツーリング写真では使える手法なので覚えておいても悪くないと思います。
このように撮影地では被写体の特徴と自分が心動かされた要因を具体的にすることで、レンズの選択やアングルの模索といった作業に落とし込めるものです。その為の有効なやり方は表現の言語化です。「二本の巨大な杉が一際存在感を放っていた空間」と言語化すれば巨大さを表現するのに対比手法を使う、空間を表現するのに空をそぎ落とす、といった具合に撮り方の引き出しから選択が明快にできるのですね。
「あの木がイイ感じだから」で撮り始めてしまうと、何をしていいか悩んでしまうものです。
望遠レンズの意外な使い方のご紹介でした!