ストリートスナップと肖像権問題 X100VのPR動画問題を受けて

究極のツーリング写真 touring-photography.com 読者の皆さま、写真を楽しんでいますか?楽しい、嬉しい、気分がいいという感情は脳幹からドーパミンやエンドルフィンといった報酬系のホルモンが分泌されると医学的に分かっているそうです。

この報酬系ホルモンが分泌されると脳が快反応をおこし肯定的な状態になります。すると思考パフォーマンスが向上しクリエイティブな仕事をするのに理想的な状況になるのだとか。そう考えると写真もまずはリラックスして楽しむことが大事と言えますね。




さて今回はFUJIFILMのX100Vという新製品のカメラで写真家 鈴木達郎さんを起用したPR動画があるのですが、それが肖像権の侵害やマナー問題として話題(というか炎上)している件で私も少しコメントしてみたいと思います。

※現在ではFUJIFILMの公式からはPR動画は削除されて謝罪文が表明されています。

私も写真を愛する人間、スナップ写真が好きな人間なのでこの件はとても興味があります。まず鈴木達郎氏を失礼ながら存じ上げなかったのでInstagramのアカウントを探してみました。そこでPostされている作品の一部が上のものですが…これが衝撃的でした。

どの作品も人間の生々しさ、時代の刹那を切り取った正真正銘の「これぞスナップ写真」の世界です。その中で人間の混沌とした感情に存在する”美”があり、都会に息づく人間の生命感に崇高さをも覚えるインパクトでした。撮る側の視線、撮られる側の視線の境界にヒビ割れのような物があり、そこから筋のような光が差し込んでいる作品です。もう完全に一人の写真観賞者として心を掴まれてしまい、身動きもとれなくなった屍のようになりました。

このような傑作を見ることが出来て感動と幸福と…そして感謝が生まれると共に、なぜこれが今、社会的に問題にされているのかを考えてみました。

リコーGR APS-C これは私が撮った写真です

街中で通りすがりの見知らぬ人に突然カメラを向けてシャッターを切れば、撮られた人が驚いて不快感を覚えるのは当然だと思います。私もいきなり誰かに撮られれば驚きます。「肖像権」なんて言葉は最近になって一般に定着した単語ですが、時代の変化とともに人々が肖像権を意識するようになった経緯とは何でしょうか。

そもそも問題の核心は勝手に人の顔写真を悪用する輩が出てきたことではないでしょうか。盗んだプロフ画像で詐欺に使うアカウントを作ったり、アダルトコンテンツを作る犯罪の類です。そういった犯罪事例から人々は「顔を盗まれる」ことに意識が高まり、見知らぬ人に写真を撮られることに警戒心を持つようになったと感じます。

林家ペー&パー子さんが分かりやすい例えです。今はやっていませんが昔、林家ペー&パー子さんは首にカメラをぶら下げて、手当たり次第に周囲の人を撮るという芸風を持っていました。むかしはあんな風に気楽に人にカメラを向けて写真を撮っていたのです。撮られた方も不快とも思わないから許されていた…というか何でもないことだったのですね。




写真機が一般に普及していなかったほど昔の話をすると、街頭写真屋といって勝手にスナップを撮ってくれて「この写真を買ってくれませんか?」という商売もあったそうです。私の祖父が若かりし頃にガス灯のある路地で咥えタバコで歩いている時に撮ってもらった街頭写真が今でも実家にあります。その写真は単純に祖父の若いころの写真というだけでなく、その時代のその瞬間を切り取った1枚にとてつもなく尊い何かを感じました。

昭和の時代に活躍したスナップ写真家の作品も同様です。撮ったその時に見ても普通の人が見る限りではなんでもない写真。しかし時代を切り取った1枚とは数十年という歳月を経て尊いものへ変わります。

RICOH GR APS-C

今回、鈴木達郎さんを起用したFUJIFILMのPV動画の件は一般の人が「これはダメでしょ」「犯罪だ…」「これを起用した企業が信じられない」といった反応が目立ちますが、どれも現代の日本の写真文化を象徴しているような反応だと感じました。と言うのも否定的なコメント主の大半は鈴木達郎さんの作品を見ていない(または見たが何も感じなかった)のです。

私の勝手な推測なのですがFUJIFILM社が写真文化や社会に何か警笛を鳴らす目的でこういった趣旨の動画を作成したのかもしれません。企画や広報のセクションに写真を愛している人、写真文化に貢献したい人がいて、様々な葛藤と覚悟を重ね鈴木達郎さんを信頼してメッセージを発信したのだと思います。見かけはX100Vという製品のPV動画ですが、そういったメッセージがPV動画内に隠されていると感じるのは私だけでしょうか。

ちなみに肖像権は民事になるので警察に行ってもだめだそうです。肖像権侵害とされる写真とは個人を特定できるアップであり、風景の中に写っている個人は侵害には該当しないそうです。そしてその境界に明確な基準はなく裁判などになるのも極めて稀なのだそうです(詳しくは専門サイトをご参照ください)。

そもそも人の顔は個人IDのようなものですよね。そしてそれを完全に秘密にして生きていくことは出来ません。

リコーGR APS-C

スナップについて見識のあまりない人の多くに「事前に交渉して承諾をえれば良いのに」という疑問があると思います。事前に承諾して撮るスナップも素晴らしい作品になりえますが、スナップ写真の世界では事前承諾のない撮り方の方が生々しさ、刹那という表現で優れていてると言われます。

だから撮る側としては事前承諾なしで撮りたいのですね。私が思うに現代として考えると事後承諾は必須なのではないでしょうか。「いま撮らせていただいたのですが芸術的観点での写真作品としてご理解をいただけますでしょうか」という撮った後に交渉をするのです。これを徹底するとだいぶ社会の反応も変わると思うのですが。




今回の騒動、今の時点で確かなことは2つあります。1つめは今回の件は日本の写真芸術の歴史に残る事件であったこと。2つめは数十年あるいは百年以上の未来に、鈴木達郎さんが撮った作品を見て多くの人が感謝するであろう、という事です。…いまこんな風に都会でスナップを撮っている人は少数なので、この作品はすべて貴重だと思うのです。

FUJIFILMも鈴木達郎さんも写真文化を通して社会に貢献したいという一心で、歪み始めた日本の写真文化に一石を投じるようにメッセージを発信したのだ…と私はそう信じたいです。その事が撮られたモデルさんに伝われば、きっと「そういう事でしたら撮っていただいて感謝申し上げます」となるはずです。一転してPV動画を削除して謝罪文を表明することになったFUJIFILM社は、きっと偉い人に「コラ、なんてことすんだお前ら」と怒られたのでしょうけど。立派な大企業ですから社会の反応を無視することはできませんからね。

もしFUJIFILMのような写真文化と向き合う素晴らしい企業と、スナップ写真で活動する写真家の方々に今後の課題のようなものがあるとすれば、スナップ写真という写真文化について、現代の肖像権社会にどう理解を勝ち取っていくかを考えるべき時なのだと思います。

今回はこの辺で!

人さえ写っていなければ何も心配ないですけどね

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