究極のツーリング写真 touring-photography.com 読者の皆さま、ツーリングライフ、写真ライフを楽しまれていますか?いかなる趣味も長いキャリアを積んでいくと楽しさを維持していくのが難しいものです。
バイクもはじめて運転したときの楽しさ、はじめてツーリングしたときの楽しさは長いキャリアとともに少しずつ薄れてしまいます。もちろんキャリアを積むことで知らなかった世界を知ったり、新たな楽しみを見つけることも多いですが、それも長くやっていると出尽くしてしまい、やがてマンネリになってしまうものです。
それを予防して長く楽しみを持続させるには、意識して楽しむ工夫を見つけなければいけません。日帰りツーリングだけだった人が泊りでツーリングしてみるとか、宿しか使ったことがない人がキャンプツーリングに挑戦してみるとか。
写真もビギナーの頃は経験を積むほど上達していくことにやり甲斐を感じ、人に見せてその反応を楽しんだり、新たな撮り方や被写体に刺激を感じたりするものです。しかし長いキャリアの中でネタが出尽くしてしまった、写真に関わるあらゆることを知り尽くしてしまった(という錯覚)がマンネリを呼びます。
人間はワガママなもので同じことを繰り返すようになり進歩を実感できないと退屈に感じるものです。
「いつも同じような写真になってしまう」「これ、この間も同じの撮ったな」とマンネリの気配を感じたら黄色信号。今回は新たな撮り方やアイデアを生み出すための脳の使い方を解説いたします。
まずこちらの作例をご覧ください。地元、南房総のとある海岸で古い別荘風の家にアロエがたくさんありました。私はこの時、この場所の雰囲気とアロエが何とも印象的だなと感じて、ここで撮影することにしました。
当初、ここで気に入ったのは家のデザインと白いコンクリの壁、そして地面などから受ける無機質な雰囲気でした。そこに緑の要素であるアロエがワイルドに存在しています。海が見えないアングルで撮っても、ここは海岸であると想像させる写真が撮れると思いました。
しかし、この場所が気に入ったのは良いとしてバイク+ライダー=ツーリングシーンをどのように融合させましょうか?この場所をシンプルに背景として使うのか、アロエを被写体にして寄るのか、または別の撮り方を模索するのか?
とりあえず、この空間を背景としてツーリングの小休止としてのシーンを演出してみました。ここでヘルメットを手にバイクに歩み寄るポーズとか、もう以前に何度かやったので同じことはしたくありませんでした。考えた末、ブーツのシューレースを締めなおしている様子で撮ってみました。
しかし、この構図ではライダーの存在が小さすぎて、せっかく思いついたアイデアが明確ではありません。もう一度、どう撮るのか練り直してみましょう。
ブーツのシューレースを締め直しているシーンを明確にするのであれば、そこが分かりやすく伝わるように寄るのが一番です。そのためにはバイクやライダーがフレームから切れていても大丈夫。
いわゆるフレーミングによる存在感の調整です。単にブーツと腕などの様子が大きく写せただけでなく、バイクとライダーの顔などが枠外になったことで、作品の主題が「ライダーが休憩中にブーツを締めなおしている」という1つのことに明確化されました。
しかし…どうでしょうか。私はこういったフレーミングなどを使った手法で過去に何枚もの写真を撮ってきました。究極のツーリング写真の熱心な読者の皆さまでしたら、お分かりかと思いますが見たことのある撮り方ですよね?別に悪い訳ではありませんが面白くないです。
自分がやってきたことの繰り返しに進歩を感じない時ほど退屈なものはないです。
どうしましょうか?この状況の解決策はどこかにあるでしょうか…。脳内の知識を検索してあらゆる撮り方やアイデアを呼び起こしてみます。しかし妙案は全くヒットしません。
そのうち集中が切れてしまいました。人間の集中力は持って30分といいます。ちょうど計ったかのように、ここで写真を撮り始めて30分くらいした頃でした。
「あ~なんだか疲れた」
梅雨の中休みのよく晴れた日、穏やかな海からザーザーと波の音、トップケースからペットボトルのジャスミンティーを出してゴクゴクと飲みほし、アスファルトの上に寝転んでみました。
う~ん、ここ気持ちいいな。誰も来ないし、知らなかったなここ。また来よう。写真はその時にまた撮ればいい。
うっかり、そのまま寝てしまいそうになったのでムクっと起き上がったその時でした。
「そうだ!!これだ!」

インスピレーションとは考え抜いて生み出すのではなく、究極のリラックス状態から突如として授かるものです。
この撮り方をひらめいた時、EOS6D Mark2にはEF35mmF2ISが装着されていましたが、急いでリモワのトップケースから我が青春のEF14mmF2.8Lを取り出してレンズを交換しました。
撮り方はつい先日、究極のツーリング写真でご紹介したコクピット風景、走行写真の撮り方と全く同じです。
写真を見る人にツーリングしているライダーの視界を感じてもらいたい。そんな思いから始めたこの撮り方ですが、それは走行中の視界に限ったことではなく、このように休憩中だって良い訳です。
自分でも愉快すぎて誰もいない海岸で一人で笑っている怪しい人と化しました。
そう、こういった新しいアイデア、ひらめき、インスピレーションは思考回路をフル回転させたり知識の中から検索をかけたところで何も得るものはないのです。いちど脳内をリセットするように「気持ちいい」「楽しい」と心に余裕をもたせてリラックス状態になったときにポコッと出てくるのですね。
当初、ここで気に入ったアロエの存在は一気に脇役になってしまいましたが、インスピレーションよりも優先すべきことなど何もないのです。ひらめいたユニークさがいつでも最優先。
だから楽しいのです。