2006年7月 北海道

2006年2月。13年ほど務めた会社を辞めることにした。
大手企業で世間体も良かったし給料は良くはないが仕事内容は割と好きだった。
なにより社会の仕組みを学ぶのにとても良かったと思える。
本当は辞めたくて辞めた訳ではないけど、いろいろと運の悪いことや手違いがあった。
次の職のあてもなく毎日家にいても仕方ないので北の大地に旅立ってみた。
いつも8月のお盆休みに北海道をツーリングしていたので、6~7月の景色の違いに驚いた。道端に咲くルピナスやラベンダー、本州の春とは違った冷たい空気も印象的だった。
違いは景色だけでなく出会う旅人達は無職やフリーター、そもそも根無し草のような人などなど、お盆期間に出会うライダーとは全く違っていた。
バイクに乗っていると音楽もラジオも聞けないし、誰かと会話するでもない。ただひたすら流れゆく景色を見つめて黙って運転するのみ。
だから単調な景色のリエゾン区間では物思いにふけっている事も多い。
だけどこの時、職を失った自分が何を考えて走っていたのか記憶にない。
ただ1つだけ覚えているのはいつ帰ってもいい自由さに喜びなど無かったこと。
はじめて北海道をツーリングした時は、帰るのが嫌で最終日は「あぁ帰りたくないなぁ」と呆然としていた。ずっと会社が休みだったら良いのに…と。
だけどいざ「いつ帰っても自由だよ」という状況に置かれても、ちっとも嬉しくなんかなかった。いやむしろ虚しかった。
そして10年以上経った今、また限られた時間の中で「自由な旅」に憧れを抱いて、自由に旅している自分を妄想する。もうあの虚しさを忘れてしまったのかも。
帰る場所がないとか、誰も待つ人がいなくていつ帰ってもいいとか、実はすごく寂しいことなんだろうけど。
つい忘れてしまう。