イグニッションキーをOFFにしてボクサーエンジンの鼓動を停止させると、その空間は驚くほど「シーン」と静まり返っていた。
旭川空港の南に位置する西神楽のエリアは道央らしい風景の隠れた撮影スポットだった。どこにも観光地っぽさがなく、ひたすら農道と長閑な風景が続いていて大好きな場所だ。
長旅の後半で疲労が溜まっていたのか、眠気にも似た倦怠感が全身を襲い始めていた。R1200GS ADVENTUREを停めた道は小さな舗装農道で、その先は行き止まり。車1台、人1人も通行しない「迷い込んでしまった」というのが相応しい忘れられた空間だった。
道端の花と遠景に滑走路が見えたので、得意の望遠レンズでその花を撮ってみた。プレビューすると、なんかモノ足りなかった。やっぱり滑走路があるなら飛行機が欲しいよね。そう独り言をつぶいやいて、文明の利器であるiphoneで空港のダイヤを調べたら30分後に羽田行きがあった。
ちょうど疲れて気分もイマイチだったので、ジャケットを脱いでアスファルトに敷き、その上に寝転んで離陸の時間まで昼寝することにした。北海道といえ日差しが強くて熟睡はできなかったが、まどろみ休息には十分だった。
やがて静寂だったと感じたあたりは「パタパタパタパタ・・・」「ガサガサガサ・・・」「ジジジ・・・ジジジ・・・」といった具合に虫や鳥たちの音でやたらに賑やかに感じた。
左腕のCASIO PROTREKに目をやると、ちょうど羽田行きの飛行機が飛び立つ時間だった。
名も無い花と名も無い道での「想い出のいちまい」だ。

2017年8月15日撮影